東京高等裁判所 昭和32年(う)2008号 判決
被告人 星野保太郎
〔抄 録〕
論旨一について。
国民公園管理規則第三条には、「国民公園内において物を販売若しくは頒布し、又は業として写真を撮影し又は興業を行おうとする者は、厚生大臣の許可を受けなければならない。」と規定されている。よつて同条がその所定行為につき何故に厚生大臣の許可を受けなければならないとしたのか、その理由を考えてみる。国民公園なかんずく皇居外苑は、我が国公園型式の代表的なもので、四囲の風光と相まち、特色ある景観を保持し内外人観賞の的であつたが、終戦後これを国有財産に移し、国が直接管理し、国民の保健、教育等その福祉のため広く国民的利用に開放され、人がこれを観賞し、散策休養するなど国民公園ではない一般の公園と同様に利用されているが、それと共に嘗つては江戸城の一廓であつたとの由緒ある沿革を持つのみならず、現に皇居の前庭となつているので、皇居外苑は他の一般の公園と違つた特殊の性格を有するものであることを是認しなければならない。そしてこの特殊性に鑑みてある種の行為は国民公園たるにふさわしくないものとし、これが禁止を要望されることがあり得る。皇居外苑内において物を販売したりするのもその一つというべく、もしこれを何等制約しないで自然のままに放置すれば、多数業者が集り、争つて客を呼んだり、客に押つけがましい行為をしたりすることも絶無ではあるまいし、又それほどの事が起らなくても、国民公園をその本来の目的に従つて利用せんとする人にとり、物品販売を目的とする者がむやみに入りこむことは不快な感じを伴うことを免れず、その事自体公園としての品位を害するし、公園としての使命を達するに遺憾なことといわなければならない。国民公園を維持管理すべき任務に当るものは、その由緒ある沿革を重んじ、公園の造型的美観を損じないよう配慮しなければならないのは当然の事であるがこれと同様利用者の立場を十分考慮し、国民公園本来の目的に添うよう利用者を満足させ、公園としての使命を達成することを所期すべきであり、そのためには物品販売業者らについてもその人を選び、その数を制限する措置をとることがあつてもやむを得ないというべく、濫りに業者間の自由競争に放任しておくことはできない。このような意味あいから国民公園管理規則第三条が定められ、同条の所為については国民公園の管理を所管とする厚生大臣の許可を受けなければならないとし、厚生大臣の許可を受けない者に右の行為を禁止し、もつて国民公園にふさわしからぬ行為を防止せんとしたものである。従つてその反面の解釈上適式の許可を受けないで同条の行為をしようとする者に対し入場を拒否することができるし又その退去を求めることもできると解すべきである。
所論は右規則第三条の規定は厚生大臣の許可を要件とするだけで、立入を禁止し得ることを定めた規定ではないから、(皇居外苑に)立入を禁止した行政処分は違法で、それ故に又右立入禁止に違反した者に軽犯罪法を適用して処罰するのは罪刑法定主義に反し、結果的には行政命令で罰則を定めたのと同一に帰し、憲法第七十三条第六号、内閣法第十一条、国家行政組織法第十一条、厚生省設置法第五条に違反すると主張する。なるほど前記管理規則第六条には退場を命じ得る場合を列挙してあり、又同規則第八条には入場を拒み又は退場を命ずることができる旨明示してあるに反し、同第三条の場合には「厚生大臣の許可を受けなければならない」と規定しているだけで、入場を拒むことができるとか、退場を命ずることができる旨の規定をみないのである。そして第三条の文理だけを追うならば、或いは所論のように厚生大臣の許可を受けないで第三条の行為をしようとする者に対し立入を禁止し得るか否か疑問を生じないではない。しかしそれは余りにも文理の末に拘泥し過ぎた解釈であつて、当裁判所の採用できないところである。先に説明したとおり規則第三条は国民公園の利用者をして満足に利用させることにより公園としての目的を達成せんとする趣旨に出たもので、そのため所管大臣の公園管理権の行使し得る規定をおき、ある種の行為を厚生大臣の許可にかからしめているのである。而して右規定の趣旨からすれば、適法な許可を受けずして同条の行為をしようとする者に対し入場を拒むことができないなら、国民公園管理権の適正な行使は不可能となり、同条の規定はその実益を殆んど失うに至るべく、かかる解釈の失当であることは多言を要しないところである。ところで原判決引用の証拠により皇居外苑は厚生大臣の許可を受けない物品販売業者に対し、同大臣の管理権に基いて、厚生省国立公園部が適法に立入を禁止した場所であることが明白であり、このような立入禁止の行政処分が違法であり無効と解すべき正当な根拠は発見し得ない。又このように解したからといつて、行政命令により刑罰を科することにはならない。厚生大臣の許可を受けない物品販売業者が皇居外苑に立入つた行為を処罰するのは、直接には軽犯罪法第一条第三十二号によるものであり、人を罰するには法律にその正条あることを要するとの罪刑法定主義のたてまえを破壊したものではない。そして厚生大臣の管理権に基いて皇居外苑内に販売業者の立入を禁止したことにより、この禁止に違反した販売業者の行為を処罰し得る結果となつたからといつて、行政命令自体に罰則を設けたものではなく、憲法その他所論引用の法令によつて許されないものではない。
厚生大臣がその管理権を行使し、適法に皇居外苑内を物品販売業者の立入禁止の場所としたに拘らず、被告人がアイスクリーム販売の目的をもつて右場所に入つた事実が存する以上、右所為につき軽犯罪法第一条第三十二号により処罰を受けることを免れないところであつて、原判決には所論のような違法はないから、論旨はすべてその理由がない。
(加納 山岸 鈴木重)